私が日本語教師としての本格的なスタートを切ったのは韓国の企業研修所ですが、実は、その前に一度、日本で4時間のプライベートレッスンを担当しました。
ボランティア経験はあったものの、プロとして、お金をいただいて行う初めての授業はとても緊張しました。
学生は英語圏に留学中で、長期休みを利用し、日本へ短期間、日本語を学びに来ていたアジアの青年でした。
教えたのは『みんなの日本語』の前身、『新日本語の基礎』の「て形」が初めて出てくる14課です。
プライベートレッスンは通常、教師も座って授業を行います。
1対1で立って授業をすると、威圧感を与えるからだと思います。
しかし、緊張していた私は座って授業をする精神的な余裕がありませんでした。
立ったまま、授業を進める私を気遣い、学生は何度も「座ってください」と言ってきました。
学生は終始、笑顔で、意欲的に取り組んでくれたので、私も楽しく教えることができたのですが、どうしても座って教えることができませんでした。
すると、学生は突然、立ち上がって言いました。
「私も立ちます」と。
授業の途中から終わりまで、私も学生も立ったままでした。
今、考えると悪いことをしてしまったなと思いますが、その時の私は学生の優しさと礼儀正しさに感動しました。
授業が終わった後、楽しかった、日本語教師になって本当によかった、こんなにおもしろい仕事はないと喜びを噛み締めたことを覚えています。
そう思えたのも学生のおかげです。
今頃、彼はどこで何をしているか、ふと考えることがあります。
得意の語学を生かして、世界を飛び回るビジネスマンとして、活躍しているのではないかなと思ったりします。
あの時、学生が見せてくれた優しさを決して忘れないで、私自身も学生に対する優しさを持ち続けることを大切にしていきたいと思っています。