社会人一年目の連休に、大学時代の友人とソウルに遊びに行きました。
ソウルには大学時代に同級生だった韓国人の友達が住んでいました。
彼女は街を案内してくれたり、おいしい韓国料理の店に連れて行ってくれたり、毎日、朝から晩までつきっきりで私たちの相手をしてくれました。
日本人では考えられない「おもてなし」を受けた友達と私は、申し訳ない思いにかられ、何かお返しできることはないかと尋ねました。
日本語教師をしているんだけど、使っているテキストの音声がない。2人は日本人だから、テキストの会話部分をカセットテープに吹き込んでほしい。
彼女はそう言いました。
当時、日本から帰国した彼女は企業で日本語を教えていたのです。
日本に帰ってから、早速、私と友達は私のうちで作業に取り掛かりました。
父自慢のステレオをこっそり使用し、分厚いテキストの会話部分をひたすら読み上げ、録音していきます。
言い間違えたり、笑ってしまったりするたびに、録音し直したので、かなり時間がかかりましたが、おもしろい経験でした。
無事に終わり、韓国にテープを送った後、お礼の電話がかかってきました。
日本語の発音がわかりやすい。日本語教師に向いてるよ。
彼女は私にそう言いました。
この言葉を思い出したのは数年後、日本語教師になり、ソウルで彼女に再会したときです。
あ、そういえばそんなことを言われたけど、当時は日本語教師と言われてもピンと来なかった。できるわけがないとすぐに記憶から消し去ってしまったんだと記憶がよみがえりました。
予言めいたことを韓国人の友達に言われていたこと、日本語教師になってすぐに韓国に行くことになったことに運命的なものを感じました。
韓国に住んでいた頃の私をいつも助けてくれた彼女。
情に厚くて、はっきり物を言うけれど、芯から優しい彼女を通して、韓国人気質、そして、日本語教師としてのあり方を学ばせてもらいました。
彼女は私にとって、生涯忘れられない存在です。
人との出会いは本当に不思議で、お金では買えない何よりも大切なものだと彼女のことを思い出すたび、感じずにはいられません。