異国に旅立つ前の緊張感 2020年8月14日

久しぶりに沢木耕太郎の『深夜特急ノート 旅する力』を読み直し、深く共感を覚える文章がありました。

名作『深夜特急』の旅を振り返りながら、『旅』について考察している素晴らしいエッセイです。

私はバックパッカーの経験はありませんが、短期間、長期間、合わせて3回、海外に住んだことがあります。

印象に残っているのは2回目です。
数ヶ月、韓国の企業に日本語を教えに行くことになりました。

教師としての経験はゼロ、おまけに韓国語もゼロレベル。ハングルすら読めない。

自分で行くことを決意したものの、日本を離れる直前に、それまで経験したことのない恐怖に襲われ、心身に異変を感じました。

行きたくない。怖い。どうして私はひとりで海外に行くんだろう?

そんな思いが渦巻きました。

けれど、出発の日が訪れると自然に切り替わりました。
予定通りに飛行機に乗り、行くべき場所に行き、渡されたカリキュラムに従い、授業準備と授業をこなす日々が慌ただしく過ぎていきました。

今日やるべきことをただやるしかない。
そこに恐怖心はありませんでした。

現地では、日本語教育漬けの毎日でしたが、苦しいことも、悔しいことも、うれしいことも、楽しいことも数えきれないほどあり、濃厚で充実した素晴らしい経験になりました。

ただ、出発前に感じた「恐怖心」は今でも鮮明に覚えています。

エッセイの中で同じようなことを沢木耕太郎も書いていました。

私が今まで日本で教えてきた学生たちもきっと同じような経験をしているのだろうなと常々感じていましたが、先日、授業で、たまたまこの話題になりました。

そこで、私の出発前の恐怖心について話してみたところ、皆、深く頷いていました。

ひとつ大きく違うのは誰も想像し得なかった新型コロナウィルスの脅威です。

学生たちは国内の感染者の推移はもちろん、自国の状況についても非常に詳しいです。

自国にいても誰もが不安を抱えた毎日を過ごす中、異国にいながら、遠く離れた母国の現状にも胸を痛めています。

彼らにのしかかるストレスは計り知れないと思います。

将来、この苦しい経験はきっと彼らの糧になると思いますが、今はただ見守ることしかできないと日々、感じています。

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