村田信一さん『バグダッドブルー』2019年12月5日

今年2月に、この本を読みました。
戦場写真とその一枚一枚の写真に対する文章が書かれている本です。

初めて村田さんの本を手に取り、衝撃を受け、思わず感想文を書いて、ご本人にメールしてしまいました。

先ほど、USBメモリに保存されていた文章をたまたま見つけ
ました。
今年2月に私が書いた感想文です。

この感想文に対する村田さんの返信がとても村田さんらしかったです。

『バグダッドブルー』を読んで

 著者の店に飾られている一枚の写真。まるで絵画のように見える。何度も目にしているのに、私はその写真に魅入られる。なぜこのような写真が撮れるのであろうか。頭の中は疑問符でいっぱいになる。
 被写体は撮られていることを意識する。その時点で「自然さ」は消失し、「自分を演じる」。写真を撮られるたび、わたしはこのように感じていた。
 
 著者の写真に対する私の疑問はこの本を読むことで、納得に変わった。著者はそこにはいないのだ。まるで透明人間のように、その場に溶け込んでいるのだと。

 鮮やかな色彩とともに、撮影された日常の自然な風景。著者のプロとしての経験の果てに辿り着いた達観、人間に対する優しいまなざし、尊敬、現状に対する理不尽さを封じ込めた客観的な視点。これらなくしては撮ることができなかった作品なのではないかと。
 
「オブジェと化す」とタイトルのついた死体の写真。著者は「足が震え、胸が締め付けられた」と記しているが、写真からそのような感情、憤りは伝わってこない。センセーショナルな衝撃も感じない。ただ「そこにある現実」が切り取られていて、読み手に委ねている。

 文章に幾度も出てくる思い。「マスメディアは切り取られた真実」しか伝えていないと。著者がそのように嘆けば嘆くほど、著者の言わんとしていることは読み手に明確に伝わってくる。
 著者自身も若かりし日の自分を内省している。この視点は「プロフェッショナル」になるために、どんな職業であれ、不可欠なものであると思う。憧れていた仕事に就けたとき、人は高揚し、その世界に没頭し、無意識に視野が狭くなる。けれど、ずっとそこに留まっていてはいけないのである。スキルを身につけ、経験を積んだだけではプロフェッショナルとは言えない。ある時点で、自分自身を内省し、批判的な視点を持ち、距離を取って俯瞰することなしに、成長し続けることはできない。

著者は今、ジャーナリズムの世界から引いている。しかし、稀な才能を持つこの人物を運命はそのままにしておくことはないであろう。いつか必ず彼は伝えるべき「何か」を見つけ、自ら動かざるを得なくなるときが来る、それが才能を持った者の使命であると感じている。

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