教師と学生が織りなす世界 2018年11月8日

チームティーチングで行う日本語のクラスは、教師と学生の独自の空気が作り上げられていきます。

同じクラスに入っていても、その日の教師によって、クラスの空気は少し変わるものです。自然に作り上げられていくのです。それがこの仕事のおもしろさと言えると思います。

それに気づくのは、同じクラスに入っている他の先生と話しているとき、そして、「第3者」が教室に入ったときです。

今まで、採用試験を受ける前に見学に来た方、新人や後輩の先生、日本語教師養成講座の教育実習生、自分より上の役職の方などに、授業見学をされたことがありますが、
「第3者」が入ると、空気は少し変わります。

特に、若い学生が多い日本語学校では顕著に見られます。私自身も少し緊張するので、それが学生にも伝染するのかもしれません。大抵、いつもより「いい学生」になります。

普段なら、すぐ冗談を言ったり、話題をそらしたり、集中力の続かない学生も、真面目に取り組むことが多いです。

「あれ?いつもと違うな…。」と思いつつ、授業を進めます。そして、その「いつも」に改めて気づかされます。

いちばん忘れられないのは、突然、教室にビデオカメラを持って、ケーブルテレビ局のスタッフが入ってきたときのことです。

卒業間近のクラスの授業で、ケーブルテレビ局は彼らの姿を追い、番組を制作するため、撮影に来たと、その時、知らされました。事前に知らなかったので、私も学生も驚きました。

ちょうど、卒業前のお楽しみの授業で、日本の映画を、要所、要所で止めて、大意取りをしたり、語彙を確認したりしながら、リラックスした雰囲気で、視聴しているところでした。

映画はもうクライマックス。映画を見る学生を撮影するスタッフ。後ろで俯瞰している私。
頭の中にあったのは、「もうすぐ映画が終わる。どうしよう。私は映りたくない…。」という思いでした。

本当は、見終わった後で、映画の内容に関する日本事情の説明をし、学生と意見交換をする予定でした。それを、急遽、学生一人一人に映画の感想を立って、述べさせる活動に切り替えました。

もちろん、学生は教案の流れは知りませんが、「はい。それでは、一人ずつ映画の感想を述べましょう。」と言ったとき、「えっ?」という、学生の驚きの心の声が聞こえました。それでも、さすが上級クラスの学生、撮影されながら、全員、堂々と感想を述べていました。
それを聞きながら、「私はなんてひどい教師だろう。」と心の中で彼らに謝っていました。

意見述べが終わった後、撮影隊は立ち去りました。その後、皆で、「あー、びっくりした。緊張した。」と、しばらく笑い合っていました。

後で考えると、番組の目的は「学生の姿を追うこと」だったので、学生を前面に出したことはよかったと思いますが、今でもちょっと罪悪感を感じています。

「第3者」が入ると、教師と学生は普段と少し違う自分を無意識に演じてしまうものなのかなと思いました。

私はやはり、「学生と自分だけ」の教室の空間が好きです。いちばん大切な時間かもしれません。

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